第2章 入学式
「さあ、寮分けがまだなのは君だけですよ。狸くんは私が預かっておきますから、早く闇の鏡の前へ」
周囲の生徒さんたちはもちろん、そもそも筆頭者である学園長先生自らが「早くしろ」と言葉にして急かすのだから足踏みしていられない。
学園長先生の持つ鞭の先で、ふぐぐー!!!と必死に抗議している狸ちゃんも私の寮分けとやらが終われば、やっと解放されるかもしれないのだ。
もうちょっとだけ我慢して待っててねーという意味を込めて、狸ちゃんに向かって小さく手を振ると、ミノムシ状態になった身体全体を揺らして「むぐぐ~~!!」と声を上げられた。
それを狸ちゃんなりの「いってらっしゃい」と都合良く解釈し、意を決して『闇の鏡』と呼ばれた、大きな鏡の前まで歩いていく。
棺から出てきたときは全然気が付かなかったけれど、こんな立派な鏡があったのねー……。
天辺には王冠。そして王冠の両側からドラゴンのような、鳥のような頭部を象った装飾が施された金の鏡枠。
ただならない鏡の存在感が、鏡を縁取る厳かな飾りを玉座のように錯覚させる。
底知れない闇の海だけが広がった鏡面は、じっと見つめていれば知らず吸い込まれてしまいそうなほど深く、果てがない。
さらに一歩、鏡の前へと踏み込んだ途端、暗闇に閉ざされていたはずの鏡面に暗緑の光が現れた。
下から吹き荒ぶ風に乗って炎が燃え上がるように光が揺らめく。
同時に鏡の足元に設えられた円形の台座から溢れていた、淡く緑色に輝く液体が波紋を描いた。
鏡と呼応するように光量を増す様が、まるで生命を宿した体液のような息衝きを連想させる。