第1章 出会い
狸ちゃんに追われている中でこの庭の前を通り過ぎた気がするけれど、あの時は逃げるのに必死だったせいでちゃんと景色を見ていなかったから……こうしてみると学園に入学する夢というより、おとぎ話の1ページの中に迷い込んだような夢という方が近いかもしれない。
夜の闇に沈んだ中庭は、人気の無さがさらにその造られた明媚に磨きをかけていて、設置されているベンチに腰掛けて星空を眺めれば気持ちが良さそうで……素敵ねー。
「ごほん」
わざとらしい咳払いの後に、ステッキの石突をカツカツと打ち鳴らす音が次ぐ。
先程の本棚だらけのお部屋――図書室に該当する――を出てから共に歩いていた仮面の男性が、お庭に気を取られて足取りが明らかに遅くなっていた私の数歩先で、こちらをジッと見ている。
今の咳払いやステッキの音は、私の足の遅いことと話を聞いていなかったことに対する注意喚起だろう。
みなまで言わずとも男性の意図を察し「あらー、ごめんなさい」と、苦笑と共に謝罪しながら小走りで彼の半歩後ろまで追いつくと、よろしいとばかりに頷かれた。
「ここは『ナイトレイブンカレッジ』――」
改まって告げられたのは、この学校の名前だった。聞いたことのない名前をたどたどしく繰り返すと、またしても仮面の男性は頷く。
「世界中から選ばれた類稀なる才能を持つ魔法士の卵が集まる、ツイステッドワンダーランドきっての名門魔法士育成学校です」
……?……??……、……???
わからない単語のオンパレードに出くわして、私の頭はクエスチョンマークで再び埋め尽くされた。
言われた言葉の半分も理解できていない。
まほーし?魔法?ついす……なんて言ったの?何を育成する学校って?
たぶんもう一度言われたって同じ反応しかできないけれど、一応もう一度だけリピートしてほしい。
けれど、仮面の男性は待ってはくれない。
立ち止まりかけた私をすかさず歩くよう促してから、コツコツとよく響く靴音とステッキをBGMにして、敢えて私より大きく三歩ほど先を行くと、立ち止まると同時に振り返った。