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鏡の世界の×××

第7章 異世界の朝




昨日は本当に色々なことがあった。

自分の部屋で寝ていたはずなのに目が覚めたらいきなり異世界の魔法学園にいて、グリムちゃんに追いはぎされそうになって、元の世界に帰れないと言われて、雨風を凌げるこの寮に寝泊まりさせてもらうことになって、ゴーストに襲われて――。


そこまで回想したところで、突然――まるで今まで溜め込んでいたものを一気に吐き出すような勢いで、シャワーヘッドから水が噴き出した。

気分は、にわか雨に降られたそれだ。
一気に濡れ鼠になりながら、顔に張り付く前髪を掻き上げる。

もう、いきなり過ぎるわー……。

でも、ちゃんと水が出るようになったのは有難い。
また出なくなっても困るから、気を取り直して、コックを捻って温度を調整する。

こちらの世界では、今の季節は秋頃らしく、水浸しになれば相応に肌寒い。

水のままでも我慢できるけれど、もう少し温度が上がってくれると嬉しい。
……が、案の定というべきか、どうやら温度調節も壊れているらしい。

ぬるくなったかと思えば、熱湯もかくやな温度にいきなり変わる。
冷たい水と熱い水の間をしばし行ったり来たりするも、どんなに微調整を試みても両極端な温度にしかならない。

最終的にはこの時間が勿体ないと断じて、水のまま髪についた埃や煤を手早く落としていくことにした。


ふと二の腕を見ると、軽い火傷の跡がついていることに気が付いた。
膝や腿にも、床が抜けて転んだ拍子に打ち付けた痣がある。
どれも数日もすればなくなるだろうけれど、身体に刻まれた痕は紛れもなく、私がこの世界に来てから負った証だ。

炎に焼かれたら熱いし、全身を打つシャワーの水は冷たい。
転べば痛いし、お腹も空く。
ゴーストに触れられた感触も、グリムちゃんのもふもふな毛並みの手触りも、埃っぽいベッドの古びた寝心地も、何もかもが現実と変わらない――――否、"これ"が現実なのだ。

最初は、全部夢の出来事だと思い込んでいた。
途中から、中々醒めない長い夢だと信じようとしていた。
最後には、これが夢じゃないことを悟った。


――――私、本当に違う世界に来てしまったのねー。


シャワーから落ちてくる水音だけが、静かな室内に響いている。

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