第7章 異世界の朝
注意深くゴーストたちの動きを観察していたけれど……いつまで経っても、彼らは昨日みたいに襲い掛かってはこない。
どころか――なんとなく、そんな気すらないようにも感じられた。
「……?」
……ヘンね。どうしたのかしらー?
相変わらず響く笑い声は不気味だし、時折不用意に顔を近付けてきてはこちらの目を覗き込んでくるので、私たちを怖がらせようとしている意図は感じられる。
実際、グリムちゃんは悲鳴と一緒に火を噴いた。
身体を透明に透かして躱されたので、カーテンの一部が焼け焦げただけに終わったけれど。
「く、来るなら来い!オレ様がまた追っ払ってやるんだゾ!」
『ヒッヒッヒ……威勢がいいねえ』
『そんなに毛を逆立てちゃって。かわいいもんだ』
『こりゃあ、脅かし甲斐があるぞ~!』
勇ましく張り上げたグリムちゃんの声が僅かに震えていることは、彼らにもお見通しらしい。
ゴーストたちは、グリムちゃんを揶揄ってケタケタと笑い飛ばし、消えては現れるを繰り返す。
一度ふわりと消えて現れたと思ったら、グリムちゃんの背後から逆立った毛並みや尻尾の先をツンと突っついたり。
真上から手を伸ばしてきたから今度こそ魔法が放たれると思ったら、こちらの頭を撫で繰るように触るだけだったり。
「……あらー?」
しばらく、じっと彼らの様子を見つめていた私は、片手を頬に当てて首を傾げる。
なんだか昨日までと明らかに雰囲気が違う。
壁も床もボロボロで、昨日の雨痕を至る所に染み込ませた部屋は、おどろおどろしいゴーストハウスであることには変わりない。
が、朝を迎えて間もない部屋には白んだ陽光が差し込んでいる。
天井近くに漂う埃を照らす光がゴーストたちの半透明な身体までキラリと淡く縁取っていた。