第1章 【もう一度、君に恋をする】
理由
その日の夜、
知らない番号からメッセージが届いた。
『降谷です』
そして続けて、
『明日の夜、時間をいただけませんか』
*
翌日
二人は静かな喫茶店で向かい合っていた。
「……警察、やめたの?」
「いいえ。僕は今も警察官です。」
じゃあ、やっぱり……
「ポアロで働いてるのは、何かの捜査として、なの?」
零くんは少しだけ困ったように笑った。
「はい。捜査の一環です。
詳しくは言えませんが、今は“安室透”として生活しています。」
「そっか……」
偽名を使って生活しなければならないほどの捜査。
七年前の言葉が、よみがえる。
ーー僕だけではなく、周りの人にも危険がないとは言えませんーー
「あのとき……」
離れるための言い訳じゃなかった。
本当に私の安全を考えた上での決断だった。
「私のこと、嫌いになったのかと、ずっと思ってた。
離れるための、言い訳をされたのかなって。」
「まさか……!」
即答だった。
顔を上げると、零くんの目は、まっすぐこちらを見ていた。
「むしろ逆です。」
「……え?」
「あの頃の僕は、あなたにのめり込みすぎていました。」
「……」
「あなたといる時間が幸せで、あなたのことを考える時間が増えて……」
零くんは苦笑する。
「このままじゃ、任務に支障が出ると思った。」
「だから、離れたの?」
「はい」
「……」
当時の気持ちが蘇って、泣きそうになった。
「私、あのとき……離れたくなかったよ……」
「……すみません」
「零くんといる時間が楽しくて、連絡がくると嬉しくて、もっと、同じ時間を共有したかった……」
零くんは悲しそうに笑う。
「言われたことも全然、理解できなくて。
零くんの気持ちも、ちゃんと言って欲しかったよ。」
「……言える立場じゃありませんでした。」
零くんの表情が苦しそうに歪む。
「一方的に離れて、あなたを傷つけたこと、ずっと後悔しています。」
そして、ゆっくり手を伸ばした。
けれど、触れる寸前で止めた。
「……今でも、僕はあなたを巻き込みたくないと思っています。」
「じゃあ、また離れていくの?」
「……いいえ」
零くんは静かに首を横に振った。
「今度は、離れません。」