第4章 見てはいけないもの
「その留守番電話は消してくれ」
「わ!いたの?家の中では気配出してよ!!」
零くんがコーヒーをテーブルに置いた。
「ありがとう」
「留守電、残していい?」
「だめ」
「どうしても?」
「………」
「寂しいときにきくだけだから」
きっと、自分が繋がっている痕跡は、できるだけ残したくないのだろう。
写真も撮らせてもらったことがない。
「はいはい。分かった、消すね」
素直に削除し、淹れてくれたコーヒーを一口飲む。
零くんは隣に座った。
そして、意を決したように口を開く。
「まずは……昼間、咄嗟に話を合わせてくれてありがとう」
「……え?」
「が僕と梓さんの異変に気付いて、臨機応変に対応してくれたから、関係がバレずに済んだ。助かったよ」
「…………」
褒められた。
感謝までされた。
わけが分からない。
「……昼間の人、梓さんじゃ、なかったの?」
「……ああ」
零が少しだけ目を細める。
やっぱり別人……
何も言わず、続きを待った。
「今日は組織の命令で、バーボンとしての任務だった」
その名前を聞いて、胸がざわつく。
「バーボン?」
「ああ。僕の、もうひとつの顔だ。潜入している組織でのコードネーム」
「………」
「そして、あの人は組織の一人、――ベルモットだ」
「……ベルモット」
「変装のプロだ。組織が追っている人間を調べるために、二人で行動していた。彼女は世間に素顔を晒すことがあまりない。それで、安室透と親しいと思われている梓さんに変装して同行した」
「だから……もし次に梓さんに会っても、今日のことは聞かないでほしい」
「………」
あまりにも現実離れした話だった。
ポアロに潜入していることは知っていた。
けれどなんのためなのかは知らないし、その先に、そんなよくわからない組織があるなんてことも予想してなかった。
しかも、人が、人に完全に化ける。
見た目だけでいえば、何の違和感もなく、梓さんそのものだった。
「……怖い」
思わず漏れ、零くんの表情が曇る。
「……」
「ごめん」
「謝らなくていい」
「頭が……追いつかない」
しばらく沈黙が続いた。
やがて零くんが、静かに口を開く。
「……本当にすまない」
その声は、いつもの余裕を失っていた。