第12章 それで十分 ※
仕事からの帰り道、会社から駅まで歩いているときに駅の近くで淳くんにばったり会った。
「あれ?さん?」
待ち伏せされているような遭遇じゃなく、それぞれ別の方角から。
すごく自然に。
警戒するように言われていなかったら何の疑問も持たない。
ドキドキする……
落ち着け、大丈夫。知り合いに会っただけ。ふつうに。いつも通りに。
「淳くん?こんなところで偶然だね!」
「そういえばさんの会社もポアロから近いんだったね。いつもこの時間?」
「そうなの。だいたいこのくらいかな?
淳くんも、今帰り?」
「そう。平日の夕方以降ってお客さんが落ち着くから、早めに帰らせてもらえるんだ。さんもまたお店にきてよ。」
「うん、また休憩のときに行くね。最近は忙しくて会社で仕事しながら食べてるから。淳くんはお店には慣れた?」
「大変なんだね。僕は楽しくやらせてもらってる。
そうだ、安室さんにも会えたよ!さんが言ってたとおりのイケメンだった。しかも女性客にモテモテ!」
「ふふっ。でしょ?
でも、淳くんも負けないくらいのイケメンだから女性客さらに増えるんじゃないかな?」
「はははっ。ありがと、でもそんなこと言ったら婚約者の安室さんが怒るんじゃない?」
「ほんとだね。今のは安室さんに内緒にしてて?ふふっ。
あっ…と。ごめんね、今日急いでるんだった。じゃあ、またポアロで!」
「あ、待ってさん!
実はさ、困ってることがあって、安室さんのことなんだけど……少しでいいから相談にのってもらえないかな?」
―― あ…これって……
《困り事を助けてくれという依頼であっても罠の可能性がある》
「安室さんのこと?相談にのりたいのは山々なんだけど、今日はどうしても時間がなくて。ほんとにごめんね?」
「……そっか。じゃあまた今度相談にのってくれる?」
「もちろん。じゃあまたね!」
そう言って腕時計を見て時間を気にするふりをして駅へ足早に入った。
何も、不自然じゃなかったはず。
私も、淳くんも……。