第12章 それで十分 ※
「。ところで…」
「なに?」
「僕のいないあいだに」
なぜかニコニコと腹黒い笑顔で言いながら顔を寄せてくる。
「ずいぶんと、“淳くん”と仲が良くなったんだな?」
私の顎を掴んで、頬をむにっと潰された。
「て…店員さん……だから…」
必死に声を出した。
そんな軽蔑するような鋭い目をして間近で見ないでほしい。
かっこよすぎて失神する。
顔も熱くなる。
きっと私はそういう顔をしたんだと思う。
零がくすくすと笑い
「何で照れてるんだよ。」
と言って手を離してくれた。
「ふぅ。軽蔑した目でみられてドキッとしちゃった。」
「くくくっ。、いつからそんな嗜好になったんだ?はははっ…くっ…傷が、痛い。」
「わぁーー…めずらしく零が自爆した。」
*
次の日から、通勤は零の言われたとおり電車を使って時間も変えた。
あとはなんだっけ。歩く道も変えるんだったかな。
ほんと、公安すごいな……。
追跡を避けるため、そういうのを当たり前にしてきているんだろう。尊敬しかない。
呑気に日々を過ごせている裏で、零たちの活躍がある。国家と国民を守るためにぼろぼろになって。
心の中で感謝しておいた。
外出は警戒をして、ポアロにも近付いていない。
数日経ったけど、なにも変わりなく過ごせている。
状況は気になるけど、零は何も教えてはくれない。
まだ警戒してくれ、ということだけ。
警戒を解かないということは、クロなのかも知れない。
それなら、なにか分かったとしても言えないのだと思う。
私は……
零が無事なら――…もうそれだけでいい。