第9章 記憶
「そっかぁ。なんだか自分のことなのに不思議な感じ。別の人の話を聞いてるみたい。」
「仕方ないさ。」
「んー…記憶がないのはそうだけど、降谷さん自身が、もう私のことを過去と今で別の人物として切り離してる気がするな。」
「……ふっ。そんなつもりはなかったけど、もしそれで不快にさせたなら悪かった。」
「ううん、不快とかじゃないから大丈夫だよ。ただ、自分のことのはずなのに少し寂しくなっただけ。
前の私を思い出すときの降谷さんは、頭の中にいる私の姿を見ていて、今ここにいる私を見ていないから、別物なんだなって。」
「……そうか。すまない。」
「あやまらないで?そもそも覚えてない私が原因なんだからね!」
「君を、別の人物と思っているわけじゃないんだ。
ただ……僕といたの姿を、今の君に押し付けてしまわないようにと思っていたら切り離す言い方になっていたのかも知れない。」
「ねぇ…今こんなこと聞くのは酷いかも知れないけど、最初のうちにきいておきたいことがあるの。」
「ん?」
「記憶が、戻らなかったとき、あなたはどうしたい?」
「…………………。」
「あ…すぐには考えられないよね。ごめん。」
「君は、どうしたい?」
「ふふっ。聞いておいて私も自分がどうしたいのか分からないの。
もし別々の道を生きることを選んで、何かの拍子で過去のことを思い出したとき、きっと私は記憶がないまま離れたことを後悔して泣くんだろうなって思う。
でも、記憶がないまま一緒に居たら、あなたに辛い思いをさせることになる。自分のことを忘れてしまった恋人といるのは……拷問だよ。」