第8章 お見合い
「…。」
名前を呼ばれた。
ただ、それだけだった。
なのに、声のトーンが予想と違ったから。
穏やかだったから、
「うぅ……っ」
泣いてしまった。オーバーフローは冗談じゃなくて本当だったようだ。
「もう、疲れた……」
と零してしまった。
零くんは、何も言わず背中を撫でてくれて、「部屋に入ろう」とだけ言った。
部屋に入ると、リビングは電気もテレビの動画もつけっぱなしだった。慌てて部屋を出たわけでもないのに。
本当にぼんやりしていたんだな…と実感した。
零くんがテレビを消して、私にソファへ座るよう促した。
いつものように質問攻めしたいはずなのに、私の様子がいつもと違いすぎて、訊きかねているんだろう。
困らせちゃだめだ。立ち直らないと!
と、心の中で自分を鼓舞してみるけど、今日はもう無理みたい。よし、あきらめよ。赤井さんにも言われたしそうしよ!ひらきなおった。
ひらきなおったら急に声が出しやすくなった。
「零くん、ごめんね。急に泣いて。驚いたよね。」
泣いたのは、零くんが怖かったからじゃない。疲れたからじゃない。
たぶん、疲れきったところで零くんを見て、声をきいて、安心して気が抜けたから。