【ごちゃまぜ】SHORT STORY【ヒロアカ】【鬼滅の刃】
第10章 More 〜8年後、恋に落ちる5秒前〜
【 03 】
周囲の馬鹿騒ぎから少し離れた席で、私はグラスの氷を指先で揺らしていた。
8年という月日は、目の前に座る彼を、すっかり「国民的トップヒーロー」にしてしまった。
端正な顔立ちに漂う圧倒的な存在感。テレビや街の大型ビジョンで見ない日はない。
「焦凍、本当に遠いところに行っちゃったなぁ……」
お酒の勢いに任せて小さく呟いたつもりが、周囲の話し声の合間を縫って、彼の耳に届いてしまっていたらしい。
焦凍は持っていたグラスをコトン、とテーブルに静かに置いた。
「……遠くに行ってなんかねぇ。お前が勝手に距離を置いてるだけだろ」
感情を表に出すことが少ない焦凍の眉が、わずかに寄る。昔から変わらない澄んだオッドアイが、私を射抜くように見つめていた。
「だって……焦凍、忙しいでしょ? 今や大人気ヒーローだし、私なんかが気安く連絡したら邪魔になっちゃうかなって」
言い訳のように早口で捲し立てる私を見て、焦凍は小さく息を吐いた。
「邪魔なわけねぇだろ。俺がどんだけ……からの連絡待ってると思ってんだ」
「え……?」
呆然とする私の手元へ、テーブルの下からすっと手が伸びてきた。
触れた指先は、ひんやりと冷たい。個性のせいで昔から冷えやすい彼の左手だ。けれど、私の手を握りしめる力には、戸惑ってしまうほどの熱がこもっていた。
「焦凍……? みんな見てるよ……!」
周りの男子たちが盛り上がっている手前、慌てて手を引こうとするけれど、彼はびくともしない。
「見てねぇ。……見られてても、別にいい」
照れる様子もなく、焦凍はまっすぐな瞳で私を見つめ返してくる。冷たい指先が、私の温かい手のひらを優しく、けれど絶対に逃がさない強さで包み込んでいく。
「8年間、ヒーローとして守りたいものはたくさん増えた。……でも」
居酒屋の喧騒が遠のき、彼の低い声だけが鼓膜を揺らす。
「男として一番そばにいたいのは、昔からお前だけだ」
心臓が跳ね上がり、呼吸の仕方を忘れそうになる。
焦凍は握った私の手を、親指でゆっくり撫でた。
「―――もう『友達』の顔で話すの、やめていいか?」