第1章 『音会う』
長い間、当たり前だった音。
高校を卒業するまでは、毎日のように聞いていた自分の音。
けれど、大学受験を理由に一度手放した。
大学に入ってからも、最初の一年間は吹かなかった。
もういいと思っていた。
音楽は高校まで。
大学では勉強して、その先は普通に就職する。
それでいい、そう思っていた。
──思っていた、はずだった。
大学一年のある日、構内で偶然オーケストラ部の演奏を聴いた。
その中にフルートの音を見つけた瞬間、自分でも驚くほど胸が痛んだ。
吹きたい。
たったそれだけだった。
結局、諦めきれなかった私は二回生になってからオーケストラ部に入った。
一年間の空白は思っていた以上に大きくて、最初は指も息も思うようについてこなかった。
それでも吹き続けた。
少しずつ感覚が戻ってきて──。
ようやく最近、自分の音が帰ってきたような気がしている。
──なのに、
「……違う」
“何か”が違う気がして、私は楽器を下ろした。
もう一度、同じ箇所から吹く。
「…………」
違う、また戻る。
吹いて、止めて、楽譜を見る。
「違うな……」
何が違うのか、自分でもうまく説明できない。
音程ではない、リズムでもない、指も間違えていない。
けれど、何かが気に入らなかった。
もう一度、もう一度、もう一度。
何度繰り返しても、納得できない。
そのうち、自分が何を直したかったのかすら分からなくなってきた。
「……もう一回」
息を吸い込んで、フルートを構えようとした──そのときだった。
「その必要はないと思うが」
「────っ」
突然聞こえた声に、思わず振り返った。