• テキストサイズ

【G@lileo】音色の方程式

第1章 『音会う』




 春の帝都大学は、どこか落ち着かない。

 新入生らしい学生たちが真新しい鞄を提げて構内を歩き、あちらこちらでサークルや部活動の勧誘の声が飛び交っている。

 そんな光景を横目に見ながら、私はフルートの入ったケースを抱え直した。


 ──三回生。


 大学生活にもすっかり慣れて、講義を受ける教室に迷うこともなくなった。オーケストラ部にも馴染んだ。先輩や同級生とは気軽に話せるし、後輩だってできた。


 ──それなのに、最近、妙に落ち着かない。


 「……三回生、か」


 口に出してみれば、余計に嫌な響きがした。

 就職、インターン、自己分析、企業研究。

 周囲から聞こえてくる言葉が、少しずつ現実味を帯びてきている。

 経済学部の友人たちの中には、もう将来を見据えて動き始めている人もいた。

 説明会に参加したとか、資格を取ったとか、ゼミをどうするとか。

 そんな話を聞くたび、私は曖昧に笑って頷く。


 ──私は、何がしたいんだろう。


 答えはまだ、見つかっていなかった。

 だからなのかもしれない。

 最近、空き時間ができると、決まって私はフルートを持ち出すようになった。

 理工学部の校舎から少し離れた場所。

 人通りが少なく、講義棟の裏手にあたるそこは、練習場所として都合がよかった。

 経済学部の人間である私がわざわざここまで来る理由なんて、それくらいしかない。

 ケースを開き、銀色の楽器を組み立てる。頭部管を差し込み、キーを軽く確かめる。

 それだけで少しだけ呼吸が楽になる気がした。


 フルートを構えて息を吸う、
 そして──吹く。


 春の空気に、柔らかな音が溶けていった。

/ 8ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp