第11章 『意識る』
午後二時四十六分。
「先生」
「…………」
「湯川先生?」
「聞こえている」
「今日、それ言うの二回目ですよ」
「…………」
「さっきも同じこと言いました」
「そうだったか」
「そうです」
私はフルートケースを置いた。
「何か考え事ですか?」
「別に」
「珍しい」
「僕も考え事くらいする」
「先生の場合、ずっと考え事してそうですけど」
「それなら珍しくないだろう」
「あ、確かに」
言われてみれば、その通りだった。
思わず笑うと、
先生は何事もなかったように、
手元の本へ視線を戻した。
「…………」
先生は、いつも通り。
……の、はずなのだけれど。
なんとなく、
今日は少しだけ様子がおかしい。
「先生」
「何だ?」
「昨日、ちゃんと帰れました?」
「ああ」
「演奏会、疲れましたか?」
「演奏したのは君だろう」
「観客も疲れるじゃないですか」
「僕は疲れていない」
「じゃあ、何でそんな顔してるんですか」
「どんな顔だ?」
「難しい問題解いてるみたいな」
「…………」
先生が黙る。
「あ」
「何だ?」
「本当に何か難しいこと考えてたんですね」
「…………」
「当たり?」
「君には関係ない」
「ひど」
いつもなら、
ここでもう少し何か返ってくる。
でも今日は、
妙に会話が続かない。
「…………」
私はフルートを組み立てた。
「じゃあ、練習しますね」
「ああ」
楽器を構える。
息を吸って音を出した。