第11章 『意識る』
翌朝。
第十三研究室で、
湯川はいつもより早く大学に来ていた。
机の上には論文とノート、コーヒーが。
そして、
昨日の演奏会のチラシが置いてあった。
「…………」
もう終わった予定だ。
必要な情報もない。
取っておく理由はない。
湯川はチラシを手に取った。
ゴミ箱へ視線を向ける。
「…………」
数秒してそのまま、
チラシを机へと戻した。
「…………」
理由を考える。
必要な資料ではない。
記録として保存する必要もない。
それでも、
捨てる気にはならなかった。
「……非合理的だな」
小さく呟く。
昨日までなら、
ここで理由を探していただろう。
仮説を立て、検証し、
説明しようとした。
けれど今は──。
「…………」
理由をもう、知っている。
湯川はチラシから目を逸らし、
ノートを開いた。
窓の外はまだ静かだった。
火曜日、
彼女が来るまで、まだ時間がある。