第10章 『帰結る』
夜の第十三研究室で、
湯川は机に向かっていた。
視界に入る光景は論文、
数式、ノートいつもと同じ。
「…………」
ページをめくって数行読む。
もう一度、同じ行へ戻る。
「…………」
眼鏡を外し、目頭を押さえる。
浮かぶのは、
今日見たものばかりだった。
舞台の上の彼女、
演奏を終えて笑っていた彼女、
客席の自分を見つけた彼女、
世良と話していた彼女。
そして、
隣を歩いていた彼女。
『でも、先生がいて嬉しかったです』
「…………」
まただ。
最近、
彼女に関することだけがうまく説明できない。
音がしなければ、気になる。
来るはずの時間を過ぎれば、時計を見る。
体調が悪ければ、それに気づく。
演奏会の予定を覚えている。
他の学生と話している姿を見れば、
理由の分からない不快感が残る。
待つ必要がないのに、待つ。