第10章 『帰結る』
「…………」
一つ一つなら説明はできる。
興味、観察、友人、偶然。
いくらでも理由はつけられる。
だが、
すべてを同時に説明しようとすると、
どれも決定的に足りない。
「…………」
湯川は椅子へ深く座り直した。
科学者として、
観測結果に合わない仮説へ固執することに、
意味はない。
なら、
別の仮説を立てるしかない。
「…………」
その瞬間、
一つだけ頭に浮かんだ。
あまりにも単純で、
今まで一度も、検討しなかったもの。
「…………」
湯川は眉間へ指を当てた。
──否定する。
そのための根拠を探す。
しかし、
思い浮かぶのは否定する材料ではなく、
これまで観測してきた彼女のことばかりだった。
フルートの音、七分の遅れ、
砂糖二つ、木曜日の静けさ、舞台の上の彼女。
そして、
さっきまで自分の隣を歩いていた彼女。
「…………」
長い沈黙のあと、
湯川は小さく息を吐いた。
「……実に、非論理的だな」
誰に向けた言葉なのか、
自分でも分からなかった。
答えはまだ言葉にしていない。
けれど、
今まで説明できなかったものが、
たった一つの仮説を置くだけで、
あまりにも綺麗に繋がってしまった。
それをもう、
偶然と呼ぶことはできなかった。