第10章 『帰結る』
やがて、駅が見えてくる。
「じゃあ、私はこっちなので」
「ああ」
「また火曜日」
「…………」
「先生?」
「演奏」
「はい?」
「今日の演奏」
湯川は、僅かに言葉を探した。
「君らしかった」
「…………」
「え?」
「上手いか下手かという話ではない」
「はい」
「以前、君はオーケストラで演奏することが楽しいと言っただろう」
「言いました」
「今日は、それが分かった」
「…………」
胸の奥が、じわりと熱くなる。
「先生」
「何だ?」
「それ、今日一番嬉しいです」
「そうか」
「はい」
私は笑った。
「じゃあ、おやすみなさい」
「ああ」
「先生もちゃんと寝てくださいね」
「君に言われたくない」
「最近は寝てます!!」
笑いながら手を振る。
少しずつ、先生が遠くなる。
湯川はその場に立っていた。
彼女の姿が人の流れに紛れ、見えなくなる。
それからようやく、
駅へ向かって歩き出した。