第10章 『帰結る』
「お待たせしました!!」
振り返ると、
彼女がこちらへ走ってくる。
「走るな」
「大丈夫です」
「演奏後だろう」
「もう元気ですって」
「そういう問題じゃない」
「はいはい」
いつもの彼女だった。
「行きましょう」
「ああ」
二人で歩き出す。
街灯が照らす夜の中、
大学から駅まで二人で並んで歩く。
「先生」
「何だ?」
「今日は本当にありがとうございました」
「何が?」
「来てくれたこと」
「礼を言われるようなことじゃない」
「私が嬉しかったんだから、言わせてください」
「…………」
「先生がいるの、舞台から見えたんですよ」
「そうか」
「見つけた瞬間、ちょっと安心しました」
湯川の歩調が、僅かに緩んだ。
「何故?」
「分かりません」
「…………」
「でも」
私は前を向いたまま、笑った。
「知ってる人が客席にいるって、いいですね」
「他にもいただろう」
「いましたよ」
「なら、僕である必要はない」
「…………」
少し考える。
けど、
「そうですね」
それでも、
「でも、先生がいて嬉しかったです」
「…………」
先生から返事はなかった。