第10章 『帰結る』
少し離れた場所で、
湯川はその様子を見ていた。
「…………」
声を掛けようと思っていた。
演奏について、伝えたいことがあった。
いつもより音が安定していた。
特に後半、
疲労が出ているにもかかわらず、
呼吸は崩れていなかった。
それから、以前より──。
「…………」
視線が止まる。
以前にも見た男子学生の姿、
同じゼミの学生だ。
今度は、彼女の頭に触れている。
彼女は笑っていた。
嫌がっているようには見えない。
「…………」
胸の奥にわずかな不快感が残った。
理由は分からない。
少なくとも演奏とは関係がない。
「先生!!」
声がした。
気づけば彼女がこちらへ来ていた。