第1章 『ひとりぼっちの人魚姫』 プロローグ
母は絶望の淵で気づいてしまった。
我が子が秘めた恐ろしい力に。
夫を失った悲しみに暮れながらも、母は少女を強く抱きしめた。
憎しみなど微塵もない。
ただ愛おしく、けれど恐ろしい。
これ以上、この子が誰も傷つけず、自分自身をも壊してしまわないために言い聞かせる。
「いい?……悲しい時や苦しい時こそ、自分の心を強く制御しなさい。怒りや悲しみに流されてはダメよ」
母の言いつけを、少女は涙を拭いながら深く胸に刻んだ。
やがて少女は、歌をうたうようになった。
歌っている間だけは、胸の奥の孤独が少しだけ和らぐ気がしたからだ。
少女が細い喉を震わせて口ずさむと、不思議なことが起きた。
荒れていた波はなだらかに静まり返り、庭の花々は一斉に蕾を開き鮮やかに咲き誇る。
海も、風も、命あるすべての植物が、彼女の歌声に優しく呼応していた。
その光景を遠くから見つめていた母は、胸を締め付けられるような思いで確信する。
この子は、おとぎ話の存在などではない。
本物の『人魚』なのだと——。