第2章 『泡沫の君に永遠の青を』 五条悟
翌朝の薄暗い早朝。
五条に付き添われ、身の回りの荷物を取りに自宅へ戻ったは、ほんの少しの荷物だけを抱え港へと向かった。
高専へ向かうための船に乗ろうとしたその時——。
「待て! その女を船に乗せる気か!?」
港に集まっていた島民たちが、血相を変えて五条たちの行く手を阻んだ。
「呪われた人魚なんかを乗せてみろ、船ごと沈められるぞ!」
「そうだ! そいつは島を滅ぼしかけたバケモノだぞ! 神聖な船に乗せるなんて許さん!」
口々に浴びせられる罵詈雑言と乗船拒否に五条はめんどくさそうに頭をかき、サングラスの奥の瞳に冷ややかな光を宿した。
「ハァ? 乗せる乗せないはお前らが決めることじゃねーだろ。こいつはもう俺たちの保護下にあるの。文句あんなら力づくで止めてみる?」
「な、なんだと……!? 貴様、人魚の肩を持つ気か!」
「バケモノの手先め! まさか一緒に島を呪うつもりか!?」
周囲の人間から向けられる痛いほどの恐怖と嫌悪が混ざり合った鋭い視線に、五条がさらに威圧的な呪力を放とうとした時、は五条の袖をキュッと強く引っ張った。
もうこれ以上、自分のせいで誰かが争う姿を見たくなかった。
そして何より——自分はこの島から出られないのだと、痛感してしまった。
「……五条さん、もう大丈夫です」
は俯き静かに首を振った。
「やっぱり……私、ここに残ります。お墓のことも心配ですし……」
「は? お前、何言って——」
「誘ってくれて、本当にありがとうございました。私に『才能がある』って言ってくれて……すごく嬉しかったです」
精一杯の感謝を絞り出すように告げると、は溢れ出しそうになる涙を必死に堪え、島民たちの刺さるような視線から逃げるように身を翻して駆け出してしまった。
「おい! 待てって、!」
五条の叫び声も虚しく、の小さな背中は朝靄の向こうへと消えていってしまった。