第2章 『泡沫の君に永遠の青を』 五条悟
島の人々から向けられるものはいつでも強い恐怖か、むき出しの敵意だけだった。
そんな中、目の前の男が見せる落ち着きと穏やかな拒絶のなさは、彼女にとってあまりにも新鮮で困惑を誘うものだった。
「……あなたは……? 島の人間じゃないの……?」
蔓を引っ込め彼女は震える声で恐る恐る尋ねた。
「そう。俺は外から来たんだよ。五条悟っていうの。よろしくね〜」
五条は近くの岩にひょいと腰掛け、彼女と目線を合わせた。
「ちょっと前に、この島でデカい嵐があっただろ。あれの調査と……まあ、原因の確認に来たんだ」
「……っ!」
『調査』という言葉に彼女の肩が跳ねる。
再びその瞳に警戒と怯えの色が混ざり、逃げ出そうと足に力を入れたが、五条は追おうとせずただ静かな瞳で彼女を見つめた。
「待てって。逃げなくていい。……お前、あの嵐をわざとやったわけじゃないんだろ?」
「え……?」
「島のおっさんたちの言い分は聞いた。けど、俺はお前の口から直接聞きたいんだよ。本当は何があったのか。お前のことを……真実をさ」
真っ直ぐに自分を見つめてくるその蒼い瞳に誤魔化しは通用しないと感じたのか、あるいは「自分の話を聞こうとしてくれた」ことに心が揺れたのか、少女は固く閉ざしていた唇を開いた。
——生まれ持った足の鱗のせいで迫害され、両親と島外れでひっそり生きてきた事を。
幼い頃に読み聞かされた『人魚姫』で泣いた日に海が荒れて、漁に出た父親が二度と帰らぬ人になってしまった事。
三ヶ月前、初めてできた友達に手を引かれて海に入り、そこで彼が波に飲まれて溺れてしまったこ——。
「助けたくて……彼を助けたくて強く願ったら、足が魚の尾鰭になって、夢中で彼を陸に引き揚げたの。でも……彼はもう、息をしていなくて……っ」
彼女の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「駆けつけた家族に、私が殺したんだと勘違いされて……その人たちが家に押しかけて……お母さんを、殺したの……! 逃げてって言って、私を庇って……っ! 悲しくて、怒りで頭がおかしくなりそうで……気づいたら嵐が起きていて……人を死なせてしまった……」
絞り出すような慟哭。
母を失った絶望と、意図せず引き起こしてしまった災害への罪悪感に彼女の胸は張り裂けそうだった。