第2章 『泡沫の君に永遠の青を』 五条悟
「まあ、これはあくまで島の人に聞いた話と、先ほど彼女を見た私の予想に過ぎないけれどね」
夏油は静かに息を吐き出し、机の上の茶呑み茶碗に視線を落とした。
「島の人々は口を揃えて『青年は彼女に海へ引きずり込まれ、呪い殺された』と言っている。けれど……先ほど私たちが対峙した彼女を見る限り、自分から進んで人を呪い殺すような兇悪な呪詛師には、どうしても見えないんだ」
「あー、それね」
五条は手持ちの串団子を飲み込むと天井を仰いだ。
「俺も同感。あいつの呪力、悲しみとか怒りでめちゃくちゃに揺れて暴れてたけどさ。……俺らを『殺す』ための殺意は一切入ってなかった」
六眼で捉えた彼女の術式と呪力の質。
そこにあったのは害意ではなく、ただ「これ以上近づかないでくれ」という切痛な悲鳴と防衛本能だけだった。
五条の言葉を聞き夏油は小さく頷く。
「……やっぱりそうか」
窓の外では、夕暮れ時の海が茜色に染まり始めていた。
寄せては返す波の音を聞きながら、夏油はどこか遠くを見つめるような瞳でぽつりと呟いた。
「これは……恐れと無知が生んだ、ただの悲劇の連鎖なんだろうね。お互いに大切なものを守ろうとした結果の、あまりにも残酷な行き違いだ」
重苦しい沈黙が部屋を包み込む。
ただ討伐すればいいだけなら話は簡単だった。
だが、目の前にあるのは人間に踏みにじられ、大切な母を奪われて世界の底でひとり震えている哀しい『人魚』の少女の存在だった。
だが、どれほど推測を重ねたところで、それはあくまで彼らの側から見えた景色に過ぎない。
少女本人の口から真実を聞かない限り、真相は闇の中だ。
2人ははもう少し島の中を調べ、彼女に関する手がかりを集めることにした。