第2章 『泡沫の君に永遠の青を』 五条悟
洋菓子店を求めて彷徨ったものの、見つかったのは老舗風の和菓子屋が一軒だけだった。
「チッ、洋菓子屋はねーのかよ……」
少々ガッカリしつつも、持ち前の甘党本領を発揮して団子や大福、まんじゅうを大量に買い漁り食べ歩いていると、通りかかった夏油に苦笑いを向けられた。
「行儀が悪いよ、悟」
「あー? 腹減ってんだからしょうがねぇだろ。傑も食う?」
「私はいいよ……」
五条を連れ立ち、夏油は「ひとまず宿へ行こう」と促した。
借り受けた小さな和室に入ると夏油は机を挟んで腰を下ろし、真剣な面持ちで聞き込みの成果を語り始めた。
「まず、この島に伝わる『人魚伝説』についてだ」
夏油の話によると、この島には昔から「人魚は災いと呪いをもたらす存在」として恐れられてきた歴史があるという。
そして十数年前、足に鱗を持つ少女が生まれ、島民から「呪われた子」として迫害を受けたこと。
家族は島外れへ追いやられ、ひっそりと暮らしていたことを語った。
「そして最近起きた事件だが……3ヶ月前、少女と密かに仲良くしていた地元の青年が海で溺死した。島民はそれを『人魚が呪い殺した』と決めつけ、青年の家族を筆頭に彼女の家に押しかけたそうだ」
五条は団子を口に運ぶ手を止め、無言で夏油の言葉に耳を傾ける。
「そこで何が起きたと思う? ……狂乱した島民の手によって、彼女の母親が殺された」
「…………は?」
「彼女が島を荒らしたとされる嵐は、母を殺され、自身も殺されかけた少女の悲しみと怒りが暴走したものだったんだと思う。植物が人を襲ったのもきっとただの防衛本能だ。……彼女は誰も呪い殺してなんていないんじゃないかな」
語り終えた夏油の表情は重く、静かな怒りとやり切れなさが滲んでいた。
五条は喉の奥で小さく鳴らすと、高台で見かけた真新しい墓とそこにお供えされていたアップルパイの光景を思い出していた。
「……なるほどね」
サングラスの奥で、五条の蒼い瞳が冷ややかに光った。