第2章 『泡沫の君に永遠の青を』 五条悟
「……誰?」
静寂を破ったのは、鈴を転がすような透き通った声だった。
その声で先に我に返った夏油は喉の奥に引っかかっていた息を吐き出すと、努めて穏やかな笑みを貼り直し一歩前へ足を踏み出す。
「驚かせてすまないね。私たちは都立呪術高専のものだ。……君に、少し話を聞きたくてね」
刺激しないよう慎重に言葉を選びながら語りかける夏油。
しかし、彼女はその言葉に警戒を強めるように、静かにその美しい瞳を細めた。
「……帰って」
少女は短く拒絶の言葉を口にすると、そっと喉を震わせた。
♪〜
——La... La-La-La...——
美しくもどこか哀愁を帯びた、短い歌の旋律。
直後、彼女の歌声に呼応するように海面が膨れあがり、大量の海水が巨大な『水龍』の形を形作って咆哮を上げるような唸り声を立てて二人へと一気に襲いかかってくる。
「っ、悟!」
「任せろって!」
五条は即座に前に出ると、術式を発動させて迫り来る圧倒的な水圧の龍を無限で受け止めた。
激しい水音とともに砂浜へと叩きつけられる。
夏油も瞬時に呪霊を呼び出し、押し寄せる余波の濁流をガードした。
「おいおい、なんだありゃ……! 術式っていうより、存在そのものが自然と溶け合ってんのか……?」
水飛沫を弾き飛ばしながら五条が可笑しそうに、けれどどこか興奮を隠せない様子で叫ぶ。
だが、激しい水飛沫が収まり視界が晴れた時には、すでに少女の姿は影も形もなかった——。