第2章 『泡沫の君に永遠の青を』 五条悟
鬱蒼と生い茂る森の奥深く。
湿った土と木々の匂いが立ち込める中を進んでいた五条が、ふと足を止めた。
「……いるな。この先に」
サングラスの奥の目をわずかに細めて五条が静かに呟く。
夏油も即座に足を止めて周囲に気を配った。
「呪霊かい、悟?」
「いや、やっぱり呪霊じゃない。……人間だ。しかも、結構な呪力を持ってる」
五条はその『六眼』で捉えた情報を冷静に夏油へ共有する。
「かなりデカい呪力だ。しかもなんか、淀んでるっていうか……めちゃくちゃに混ざり合ってて、荒れてる」
「なるほど……どうやら一筋縄ではいかないようだね」
夏油が静かに呪力を高め、警戒を強めながらさらに奥へと進んだその時だった——。
ガサガサッと激しい音を立て地面から太い植物の蔓が生き物のようにしなり、2人を襲う。
「っと、危ねぇな」
五条は避ける素振りすら見せない。
襲いかかる蔓が彼の身体に触れる直前でピタリと停止し、弾かれたように空間で静止した。
『無限』の障壁によって一切の接触を拒まれた蔓はむなしく空を打つ。
一方の夏油も素早く呪霊を呼び出し、襲い来る蔓を容赦なく払った。
「呪力で植物を強化して操っているのか……確かにこれじゃ、普通の人間は近づけないな」
次々と襲いかかる植物の猛攻をいなしながら森を抜けると、視界が急激に開けた。
打ち寄せる波の音が耳を打つ。
目の前に広がっていたのは太陽の光を浴びてキラキラと輝く海と、白い砂浜だった。
そして、その波打ち際に——ポツンと佇み、じっと海を眺めているひとりの少女。
人の気配に気づいたのか、彼女がゆっくりと振り返る。
「……っ」
その瞬間、五条と夏油の動きが完全に止まった。
風に揺れる長い髪と透き通るような白い肌、そしてどこかこの世のものとは思えない儚げで美しい顔立ち。
何よりも、その瞳に宿る圧倒的な悲哀と静けさが、二人の息を呑ませた。
圧倒的な存在感と美しさを前に、百戦錬磨の術師である二人の時間が、まるで一瞬だけ停止したかのように静まり返っていた——。