第10章 泡沫
猛省していたら寝室から物音が聞こえた。
もしや、起きてしまっただろうか
寝室に入ると、名前さんの体勢がベットに寝かせた時から変わっている。
ベットのすぐ下を見ると、ペットボトルの水が落ちていた。
寝返りをうった時に、枕元の棚の上に置いてあったペットボトルをひっかけて落としたようだ。
彼女の腕も、だらんとベットからはみ出している。
はみ出た腕を直してやろうと掴むと、彼女が身じろいだ。
起こしてしまったかと思った瞬間、
「しな…せんせ…」
「!」
「ふふっ…す…き…」
俺は、動けなくなった。
寝言だ。
随分と愛らしい、寝言。
夢を見ているらしい。
寝顔も、俺の好きなへにゃりとした笑顔になっている。
夢の中で彼女にこの顔をさせているのは、俺ではないらしい。
名前をはっきりとは言わなかったが、十分わかる。
"しな"から始まり、終わりは十中八九"せんせい"だろう。
それなら当てはまる人物は1人しかいない。
不死川だ。
彼女は、不死川を想っているようだ。
だからあいつに写真を頼んだのか。
俺は彼女の腕を掴んだまま、再び心に黒いもやが広がっていく感覚を味わっていた。
「んっ…ぁ?……ぎゆ、くん…?」
何分そうしていただろうか、ふいに彼女が目を開け、俺の名を呼んだ。
まだ酔いが覚めてないのだろう…惚けた無防備な顔で、甘ったるい声だった。
黒い感情と彼女の扇状的な様子に、俺はいてもたってもいられなくなり、掴んでいた彼女の腕をベットに押さえつけ、覆い被さった。
ベットが軋む音がした。
「……」
「……」
頭の中の、辛うじて残っている冷静な部分が、頼むから抵抗してくれと切願している。
それに反し、彼女は突然覆い被さってきた俺を見ても特に驚かず、相変わらずの惚けた顔で見上げている。
ふと、彼女の半開きの口が目についた。
ふっくらとした唇と、その隙間から覗く濡れた舌に釘付けになる。
この唇と舌は、どんな味がするのだろうか…
遠くで、わずかな理性が切れた音がして、吸い寄せられるように顔を近づけた。
あと数ミリのところで、彼女が口を開いた。
「ぎゆくん、どうしたの…つらそうだねぇ…」
彼女が俺の頭を、ぽん、ぽん、とゆっくり軽く撫でた。
その瞬間、一気に頭が冷え、激しい後悔が押し寄せる。