第10章 泡沫
「っ…すまない…!」
慌てて身を離そうとしたが、名前さんが俺の首に腕を回し、叶わなかった。
そのまま、ぎゅうっと彼女の胸に抱き込まれる。
「ぎゆうくんは、すてきなひとですよ…だいじょうぶ、だいじょうぶ……」
子どもをあやすように、俺の頭を胸に抱きながら優しく撫でる彼女。
常日頃から己の情けなさを痛感している俺は、その言葉に目頭が熱くなった。
無理だ
諦められない
身の程知らずと笑われてもいい
この人を、他の男のものにしたくない
ただでさえ抑えれていなかった気持ちが、溢れ出して止まらなくなってしまった。
胸に抱かれているため、名前さんの心音が聞こえる。
その心地よい音と柔らかい感触に心の緊張がほぐれ、しばらく身を委ねた。
……そういえば、彼女は歳が俺の5つ上だといっていたな
この包容力は、年上のなせる技なのだろうか…
…いや、きっと年齢など関係ない。
名前さんだからなのだろう
深呼吸をすると、彼女の香りが胸いっぱいに広がった。
花のような、優しい匂い。
だんだんと気持ちが落ち着いてきた…。
名前さんの様子を伺うと、また眠ってしまったようで、静かな寝息が聞こえてきた。
俺の頭を抱えている腕をそっと外し、彼女から離れ身を起こす。
冷静に考えたら、いくらなんでも無防備すぎやしないだろうか。
寝込みを襲われても仕方ない状況だ。
付き添ったのが俺でよかったと、心底安心した。
…名前さんは、不死川がよかったと思っているだろうが。
しかし、俺はもう遠慮する気はない。
全力で彼女を口説こうと思う。
不死川より、俺が良いと、思わせるために。
暫く彼女の髪や頬に触れながら寝顔を眺めていたら、またよからぬ気分になってきてしまったので、頭を冷やすため風呂に入ることにした。