第9章 飛沫
初めてみるドス黒義勇くんに慄いていると、私の代わりに不死川さんが答えてくれた。
「撮ってねぇよ。俺より、お前に頼めって言ったんだァ」
「ちょちょちょ、不死川さんっ!それはだめですって!!」
「やめろ今ここでしがみつくんじゃねェ!!」
天元さんに頼もうと思っていたのに、不死川さんが義勇くんにって言うもんだから慌てて掴み掛かろうとしたところをデコを押さえつけられ不発に終わった。
「…俺では、ダメなのか…」
義勇くんの弱々しい声色に振り返ると、さっきのドス黒いのは跡形もなく消え、代わりに真っ青な顔でこちらを見ていた。
あ、あかん、拗らせモードになっとる!!!
「あ…ぎ、義勇くんには、すっ転んだ時に助けてもらってすでに迷惑かけてるので…頼みづらくて…」
「……では、俺が嫌なわけではないと?」
「もちろんです誰が嫌なもんですか!!…あ」
つい反発してバカ正直に言ってしまった。
「なら、俺が一緒に撮ろう」
義勇くんが目をキラキラさせて提案してきた。
助けを求めるように天元さんと不死川さんを見ると2人とも勢いよく目を逸らしやがった。
くそぉお
「で…でもでも、さっきも言ったけど義勇くんにはすでにご迷惑を「俺はあの時のことも今回も迷惑と思っていない。よって問題はない」…あ、はい」
急にハキハキ喋るやん
「さぁ、撮ろう」
「……はぃ」
もうこれは諦めるしかない。
至近距離の推しに私は耐えられるだろうか…
しかもその写真を彼氏と言って第三者に見せなければならない…
恥ずか死ぬ…
「私が撮ってあげるわ!」
ニッコニコのカナエさんがスマホを構えてスタンバってくれてた。
もう完全に逃げられない…
私は義勇くんの方にほんの少しだけ寄って、ぎこちない笑顔を浮かべた。
「…恋人のフリなのだから、こちらの方が自然だ」
ぐいっと、
義勇くんが、私の肩を抱いて、引き寄せた。
耳と耳が触れる距離、私と義勇くんの髪が混じり合う
そして肩に感じる温もり
もう、キャパオーバーだった
ビックバンどころじゃない
「〜っ…!」
カシャッ
「撮れたけど…名前さん…」
「うむ!顔が真っ赤だな!」
「派手に照れてやがる」
うわぁあああ
こんなの反則だよぉお
私はあまりの恥ずかしさに、残りのサングリアを一気に飲み干した。