第5章 水鏡
「すまない、不躾に呼んでしまった...」
「いえ全然!!!!わたくしめの名前なんぞいくらでも好きに呼んでください!!!!」
引かれていないようでほっとする。
異性からいきなり下の名前を呼び捨てで呼ばれるなんて良い気はしないだろう。
それでも彼女はこうやって俺に優しい言葉をかけてくれる。
こんな人に惹かれるなという方が無理というもの...
「なら私、名前さんって呼んでいいかしら!!」
「俺も名前ちゃんって呼ばせてもらうぜ」
「ぜひぜひー!お二人の下のお名前も教えてください!」
さすが人たらしの胡蝶と宇髄は、あっという間に俺よりも彼女と仲良くなり、下の名前で呼び合うようになったようだ。
俺の時とは違い、会話が盛り上がっている。
俺も下の名で呼びたい...
「そういえば、昨日、冨岡にマフラーとカイロ貸したろ?」
「あぁ、渡しました!」
「おもしれーの、こいつ、2つともデスクの上に置いてたんだけど視界に入る度に「やめろ宇髄そこまでだやめろ」いででででで」
宇髄が余計なことを言い始めたので焦って思わず背中をつねってしまった。
確かに昨日はマフラーとカイロが目につく度にそっと撫でたりしてしまったがそれを彼女に知られるのはまずい。
恥が過ぎる。
知られたら体温は39度以上、心拍数は200以上になりそうでなんだかよくわからない痣も出そうな気がする。
「......マフラーはクリーニングに出している...返すのが遅くなってしまうが、すまない」
話を変えようと、宇髄の言葉に?マークを浮かべている彼女にマフラーがすぐに返せないことを伝える。
「わぁっ、そのまま返してもらってよかったのに、わざわざすみません!」
申し訳なさそうに眉をさげる。
そんな表情も可愛らしいと思ってしまう。
なんだかもう、いろいろと手遅れな気がしてきた。
「あっと、いけない、そろそろ行かないとやばいです!」
「あら、長々と話してごめんなさいね」
「またなー名前ちゃん」
「はい、また!」
彼女が笑顔で会釈をして歩き始める。
あぁ...結局俺も下の名で呼んでいいか聞けなかったな...