第5章 水鏡
話すのがあまり上手くない俺は、宇髄達からの質問に答えるという形で彼女との関係をなんとか説明した。
3ヶ月ほど前の朝の立番の時、
痛いほど視線を感じそちらを見ると、食い入るような目でこちらを見ている女性がおり、目が合ったので挨拶をしたらとても朗らかな笑顔で返されたこと、
その女性はどうやら通勤時にこの学園の前を通るらしく、会うと必ず挨拶をしてくれるようになったこと、
1ヶ月ほど前の雪の日、彼女が自転車で盛大に転んだところを助けたこと、
その日以来、会えば他愛無い話もするようになり、俺が怪我をした時に絆創膏をもらったことや、今朝はこの寒さで防寒着を着ていない俺を気遣ってマフラーとカイロを貸してくれたことを話した。
俺の想いと、きっかけについては伏せた。
「はぁああ〜?!なんだその話!冨岡のくせに派手に生意気だな!」
「同意」
心外だ。
「あァ...ひょっとしてあの人かァ...俺も立番の時会ったわァ」
「俺も心当たりがある!!!!」
「不死川くんと煉獄くんも知ってる方なの?」
「どんな女なんだ?!」
不死川と煉獄の言葉に、胡蝶と宇髄が興味津々といった様子で続きを促す。
「俺も立番の時に向こうから挨拶された。確かに感じよかったなァ」
「同じく!俺の時も明るく笑顔で挨拶してくれたな!!良い人だ!!」
「学校の立番に愛想よく挨拶する通行人はそうそういないからな、2人の言う通り同一人物なのだろうな」
不死川と煉獄の言葉が、俺の心に影を落とした。
彼女と朝の時間を共有していたのは俺だけではなかったのだ。
あの笑顔は、俺以外にも向けられていた。当然だ。
想う資格がないといいながら、心のどこかで自惚れていた。
愚かな自分に嫌気がさす。
「盛り上がるのは結構だが...皆、職務を全うするように...」
「あら!いけないもうこんな時間!」
「話に夢中になっていたな!不甲斐なし!」
「あー!まだ聞きてぇことあんのに!」
悲鳴嶼先生の鶴の一声で、皆仕事に戻った。
俺も重い足取りで授業へ向かった。
あの日助けたのが俺ではなく煉獄や不死川だったら、彼女の自転車も救えたのだろうな...。