第5章 水鏡
朝の立番を終え、職員室へと向かう。
なんだか今日は生徒が騒がしい。
ガラッ
職員室の戸を開けると、冷えきった肌に暖かい空気がじわりと触れ、少しほっとする。
自分の席へつき、マフラーを外して丁寧にたたみ机の端に置く。
手に持っていたカイロはパソコンのディスプレイの下に飾った。
数ヶ月前に出会った、朝の立番の時にしか会えない人。
カイロに描かれた落書きとは思えないキツネの絵(異様にリアル)と借りたマフラーを見て、今朝の彼女とのやりとりを思い出し心が温まる。
俺は、恐らく彼女に好意を寄せている。
自覚したのは、彼女が助けてくれたお礼にと焼き菓子を持ってきた日だ。
人助けは人として当然のこと、教師なら尚更だ。
むしろ彼女の自転車は救えず大破させてしまったので、申し訳なささえ感じていた。
だから俺は頑なに焼き菓子を受け取ろうとしなかったのだが、
彼女はこちらが受け取り易くなるよう気を遣った言い回しをしてくれ、まんまと頂いてしまった。
もともと、会う度に笑顔で挨拶をしてくれる彼女に惹かれつつあったので、あの日のやりとりが決定打となってしまった。
だが、俺にあんな素敵な人を想う資格はないことはわかっている。
こんな想いは不相応だと...。
物思いにふけっていると、ふと、今日の職員室はいつもより静かだなと気づいた。
周りを見ると、なぜか皆こちらを凝視している。
......なぜだ?
「.........おいおい冨岡!そのマフラーはなんだ?」
同僚である宇髄が肩に腕を回してきた。
勢いが強く少し痛い。
「明らかに女もんじゃねぇかァ?」
「妙なカイロもあるぞ」
「キツネの絵が描かれているな!!しかも上手い!!」
「あらあらぁ、生徒たちが騒いでいたのはこのことだったのねぇ」
同じく同僚の不死川と伊黒、煉獄に胡蝶もわらわらとやってきた。
これは...なんと説明しようか...
自分の想い人に関する話は、気まずい。
「..............」
「いやなんか言えよ」
ばしっ
宇髄に肩をたたかれる。
痛い。
「...あれは、3ヶ月ほど前...」
「そんなに遡るのかよォ、さっさと話せェ」
「相変わらず人を苛立たせる奴だ」
仕方なく話し始めたのに酷い言われようなので話すのをやめたくなったが、それでは絶対納得しないだろうから潔く諦める。
