【H×H 短編集 ✴︎ R18】狂気の先にある日常
第1章 赤いシャツ ※裏 イルミ×使用人
ナレッタは息を殺した。
一瞬、世界が遅くなる。
イルミは目を閉じ、ナレッタのスラックスに手を伸ばした。スラックスが膝のあたりまで降ろされた、その瞬間――ナレッタは隠し持ったナイフを振り上げた。
「やぁっ!」
イルミの腹筋目掛けて、刃を振り下ろす。
次の瞬間、金属が硬く弾かれ甲高い音がした。
「残念。殺気、漏れてたよ」
イルミは目を開けていなかった。
それでも、口元は薄い笑みが浮かんでいる。
欠けたナイフがシーツに転がり、軽い音を立てて止まった。
血は一滴も出ない。
「あ……」
ナレッタの喉が詰まる。
「面白いからやらしてやるつもりだったのに、ついついガードしちゃった」
踏ん張っていた膝が震えだし、そのままイルミの上にへたり込む。ジャケットの袖から覗く指は震えていた。
血の匂いがしない。
望みは絶たれた。このまま、狂いそうな日々を送り続けるしかないのか……ならいっそのこと。
――殺してほしい。
目の前のこの暗殺者に、綺麗に、確実に、終わらせてほしい。
ナレッタは観念して、項垂れた。
イルミの手が、ナレッタの顎を掴んで顔を上げさせた。
「下手くそだね。ちゃんとヤレよ」