【H×H 短編集 ✴︎ R18】狂気の先にある日常
第2章 被験体 ※裏 シルバ×イルミ×教育係
イルミは、満身創痍とは思えない足取りで、数歩のうちにあたしとの距離を詰めた。
そのまま、手が伸びてくる。
あたしは思わず肩を揺らし、ぎゅっと目を閉じた。
「……!」
けれど触れたのは、思いのほか優しい手だった。
後頭部をそっと支えられ、柔らかな感触が唇に重なる。
(……)
恐る恐る目を開ける。
すぐ目の前にイルミの顔があった。
長い睫毛が伏せられている。
やがて、ゆっくりと唇が離れた。
「教えてもらったことは、ちゃんと覚えた」
イルミはいつもの涼しい顔であたしを見る。
「今度は俺がやってみるよ」
「……」
ほとんど変わらない身長。
それでも僅かに見下ろしてくる黒い瞳を、あたしはしばらく呆然と見つめて――ハッとした。
「! ……待って。その傷で」
「ああ、これ?」
イルミはまるで今気づいたみたいに、身体中の傷へ目を落とした。
「痛いけど、平気。こういう訓練は、死なないようにやってるから」
「でも……」
「父さんは、俺が仕事で怪我して死なないように、ギリギリまで追い込んで鍛えるんだ」
傷跡を見つめる黒い瞳が、くりっと瞬く。
「メチャメチャ怖いけどね」
その声は、不思議なくらい穏やかだった。
「でも俺は、それが父さんなりのやり方だって知ってる」
「イルミ……」