【H×H 短編集 ✴︎ R18】狂気の先にある日常
第2章 被験体 ※裏 シルバ×イルミ×教育係
あたしはいつからか、人と身体を重ねることくらい、なんでもない顔でできるようになった。
そんな自分を、潔い女だと思ったこともある。
だけど、本当は違ったのかもしれない。
あの時も。
あの時も。
戸惑うことも、怖がることも、好きになってしまったことさえも。
全部、欲望のせいにしてしまえば簡単だった。
もしあの時、自分の中にある弱さから逃げずに、ちゃんと言葉にできていたら。
こんなあたしが、恐れ多くもあなたを好きになってしまいました、とたったそれだけのことをちゃんと言えていたなら。
今頃、別の人生があったんだろうか。
好きな人の隣に並んで生きていく。
そんなこと、小心者のあたしにもできたのかな。
いつだって、人の心には純粋な愛と欲望が渦巻いている。誰の心にだって。
どっちか一つだけなんてことはない。
あたしも。
きっと、イルミも。
愛しくて。
触れたくて。
大切にしたくて。
自分のものにしたくて。
壊したくて。
なのにあたしは、イルミの中にある一つだけを拾い上げて、「これは欲望だ」なんて勝手に定義した。この子が差し出してくれたものを、ちゃんと見ようともしないで。
「……そっか。ごめんね」
あたしは叱られた子どもみたいに小さく呟く。
イルミの眉が僅かに動いた。
それから、あたしからゆっくり視線を外した。
「見くびるなよ」
イルミの声が低くなる。
さっきまであたしを見ていた黒い瞳が、今度は鋭くシルバを捉えた。
「俺は暗殺者だ」
「……」
「父さんの命令だから、今からおねーさんを殺す」
あたしの胸が、僅かに縮む。
けれどイルミは続けた。
「でも――」
真っ直ぐ父親を見上げる。
「やり方は俺が決める」
「……」
シルバは何も言わなかった。
ただしばらく、息子の顔を見つめていた。
やがて大きな手を伸ばしイルミの頭にぽん、と置く。
それが何を意味しているのか、あたしには分からない。
シルバは何も言わないまま手を離すと、そのまま部屋を出ていった。
残されたのは、あたしとイルミだけだった。