【H×H 短編集 ✴︎ R18】狂気の先にある日常
第2章 被験体 ※裏 シルバ×イルミ×教育係
でも、あたしなりには精一杯やったから、悔いはない。
普通に生きてたんじゃ絶対に関わることのない、こんな親子にも出逢えたし。
なんだかんだ、スリリングで楽しかったな!
そうやって自分の人生を無理やり綺麗に畳もうとした、その時だった。
「ちょっと、待ってよ」
横から、苛立ちを含んだ声が鋭く刺さった。
「……?」
「あのさ」
イルミが顔を上げる。
「父さんも、おねーさんも。俺のこと馬鹿にしてるの?」
「……え?」
「感情って、そんな都合よく取っておいたりできるの?」
イルミはあたしを見る。
「今ここにあるのが、感情じゃないの?」
「……」
あたしは何も言えなかった。
「俺の感情は、俺のものだ」
「イルミ。いい加減にしろ」
シルバの低い声が飛ぶ。
「お前が被験体の女を好きだなどという、くだらん感情を持つことは断じて認めん」
「父さんは黙って」
「……イルミ」
「イルミ、あたしは被験体だよ」
「うるさいな」
「………イルミ」
あたしとシルバは、思わず顔を見合わせた。
その時だった。
ギ、と金属の軋む音がした。
「…?」
見ると、イルミが手枷を嵌めたまま、ゆっくりと腕を広げている。
ぎり、ぎり、と鎖が引き絞られる。
次の瞬間。
――バキンッ!
鈍い音を立てて、鎖が千切れた。
続けて足枷の鎖を踏みつけるように引き千切ると、イルミは何事もなかったかのように立ち上がる。
床に落ちた鎖が、じゃらりと鳴った。
「……」
あたしは思わずシルバのほうへ身を寄せた。
シルバは黙って息子を見ていた。
立ち上がったイルミが、一歩前に出る。
「俺にとって、おねーさんは被験体なんかじゃない」
大きな背中に半分隠れたあたしを、黒い瞳が真っ直ぐ捉える。
「おねーさんは、おねーさんだ」
「……」
「俺は、おねーさんのことが好き」
一切、目を逸らさない。
「誰になんて言われても、それが俺の感情だ」
その瞳に、射抜かれる。
(あ……)
純粋って、こうだったな。
ふいに、そんなことを思い出した。
そして胸の奥が、ちり、と痛んだ。