【H×H 短編集 ✴︎ R18】狂気の先にある日常
第2章 被験体 ※裏 シルバ×イルミ×教育係
この一件のあと、イルミのあたしに対する呼び方が変わった。
翌日。
イルミは訓練へ向かう前に、わざわざ地下室へ顔を出した。
「被験体のおねーさん」
「何? イルミ」
「ちょっと話がある」
そう言うイルミはいつも通りの平坦な顔をしている。
けれど、その奥にはほんの少しだけ、笑みのようなものが滲んでいる気がした。
「?」
なんだろう。
あたしは首を傾げて、次の言葉を待った。
「その前に……」
イルミはそう言うと、着ていたシャツをばさりと脱ぎ、あたしの頭から雑に被せてきた。
「なんか落ち着かないから、それ着といてくれる?」
「?」
あたしはここへ連れてこられて以来、ずっと地下室に監禁されている。
湿っぽいうえに風も通らず、不快この上ない。
ろくに着替えもできないまま、着ていたタイトワンピースも汗ばんで気持ち悪くなり、とっくにその辺へ放り出していた。
だから今は、細い肩紐のブラトップとTバックだけ。
ひんやりした床に素肌をくっつけて、少しでも涼を取ろうと寛いでいたのだ。
――それがどうやら、今日のイルミには落ち着かないらしい。
白く細い身体には、意外なほどくっきりと筋肉の線が浮かんでいる。
頭から被せられたシャツの隙間からそれを覗くあたしの目は、もうギンギンだ。
「はいはい」
けれど、そこは大人。
何食わぬ顔でシャツに袖を通し、平静を装って返事をする。
「で、なーに?」
「もしかしたらなんだけど、誰にも言わないで欲しいんだけど」
「ん? どした?」
「俺、おねーさんに変な気持ちになってる」
「そうかー。で、変な気持ちってどんなかな?」
「なんだろう。嫌、じゃなくて良いみたいな気持ちかな」
あたしはうんうんと頷く。
「私もイルミのこと、良いと思うよ」
「……え?」
そこで初めて、イルミの表情がわずかに動いた。
「本当?」
「ホント、ホント。でもさ」
あたしは少しだけ声を落とした。
「お父さん言ってたよね。感情なんて当てにならないって。それにイルミのお仕事には、そういうのって邪魔なんでしょ?」
「……」
「お父さんにバレたら大変だぞ」
「……」
「だからさ、その気持ちは胸の中にしまっとけ」
あたしはそう言って、イルミの胸を指先でぴっと突いた。