【H×H 短編集 ✴︎ R18】狂気の先にある日常
第2章 被験体 ※裏 シルバ×イルミ×教育係
「イルミ、何してる」
「いや、体の使い方。父さんにいつも言われてること」
イルミは淡々と説明した。傷だらけの腕で、あたしの体をコントロールしながら。
「正面から向き合うより――押されたら引く、引かれたら押す、だよね」
言われた通りだった。あたしが腰を預けて追えば、イルミは引いて間を作り、逃げようとすれば、その逃げを利用してさらに深く沈めてくる。
ゲス野郎の息子は、驚くべき優等生だった。
体術の原則を、こんな場所にまで真剣に応用してくる。傷口から血が垂れているのに、一切顔色を変えず、動作は正確だった。
「それにこれなら、俺も被験体に最小限しか触れずに済むし」
……いや、前言撤回。
やっぱり、コイツもヤな奴じゃん。
「よし。そこまででいい」
シルバの声が落ちた。
「…?」
イルミが動きを止める。
あたしの中では熱がまだ高まったままだ。
「そこまで分かれば結果は見えてる。やる必要はない」
「ちょっ、ちょっと」
思わず声が出た。
「そっちの必要はないかもしれないけど、こっちにはあるでしょう! どう見ても!」
シルバは仏頂面のまま、短く返した。
「知らん。やりたきゃ勝手にやれ」
その一言で、部屋の空気が少しだけ止まった。
イルミは傷だらけの腕を下ろし、あたしを見た。表情は相変わらず読めない。
でもその目の奥に、ほんの一瞬だけ、何かが引っかかったような影があった。
「……、」
わずかに怯えているように、イルミは息を呑んだ。