第2章 嫁入り
温室や厨房、洗濯場、物置、使用人棟などで挨拶回りをしたサプフィールは最後に庭園に出ることにした。
「とっても広いね。それに、なんて言うか……すごく眺めやすい気がする」
「ええ。草木や花の丈や色など、緻密に計算されているように見えます。素晴らしい景観ですね」
過不足なく整えられた樹木や草花の間の舗装路を通りながら、2人はゆっくりと庭を進む。
「たくさん歩いてお疲れでしょう。あちらの東屋で休憩なされてはいかがでしょうか」
「うん。せっかくだし……座っとこうかな」
白を基調とした柱と屋根の建築物に辿り着き、そこに設置されている椅子にサプフィールが腰を下ろす。
陽がかなり傾いてきているからか、コオロギやキリギリスの出す音がそこかしこから響いていた。
遠くで庭師が道具を片付けている様子が小さく見える。もうすぐ帰るところなのだろう。
景色を眺めるサプフィールの鼻先を掠めるように赤トンボが横切っていく。
トンボの羽根が夕暮れの光を反射して、静かに煌めいた。
「……私、ここで上手くやっていけるかな」
独り言のような調子でサプフィールが呟く。
「上手くいかなくても……やるしかないんだよね」
「ええ。それがサプフィール様の務めです」
穏やかな口調でソーニャが返した。
嫁入り。伯爵夫人。新しい環境と役目がサプフィールを歓迎していることはサプフィール自身も理解しているものの、重荷であることには変わりない。
「……そろそろ帰ろっか」
立ち上がり、ソーニャに振り返った。
橙色に染まる庭や屋敷を見ながらサプフィールはまた歩き出す。
その足取りはほんの少し重く、けれどしっかりと踏み締められていた。