第2章 嫁入り
腹を決めてダイニングに向かったはいいものの、そこに2人分の食事はなかった。
上座のすぐ近くの席にサプフィールの食器が用意されているだけで、スヴェトザールが座るはずの席には何もなかった。
「旦那様はどちらに?」
サプフィールに代わって、ソーニャが近くのメイドに問いかける。
「旦那様は執務室にいらっしゃるはずです。朝食も昼食も執務室で摂られることが多いので」
「そうですか。……サプフィール様、いかがなさいますか」
「お仕事の邪魔をするわけにはいかないよ。伝えるのは、夕食のときにする」
昼食はそのままダイニングで摂る。執務室にも押しかけない。サプフィールは浅く溜め息を吐きながら、十字を切って食前の祈りを唱えた。
1人で黙々と食べ終えたサプフィールはソーニャと共にダイニングを後にし、自身の午後の予定を家令に確認することにした。
「奥様、午後の予定は特にないため、ご自由に決めていただいてかまいません。本日はどうぞ、ごゆっくりお過ごしください。明日より奥様のお務めについてご案内いたします」
「じ、自由に……ゆっくり……?」
「スヴェトザール様のご提案です。王都からの長旅でお疲れでしょうし、少しでも心身を休める時間に充てるようにとのことです」
体調を気遣われている。
きっと昨日自分が早々と眠ってしまったせいだ、とサプフィールは頭を抱えそうになった。
不甲斐ない。大人しく自室へ戻ろうと歩いていると、後ろからソーニャが言う。
「サプフィール様、せっかくですし屋敷内を散策してみるのはいかがでしょうか」
「散策……勝手にしていいのかな」
「ええ。新しい女主人として、屋敷の間取りを覚えたり使用人たちに顔をお見せになって回られたりなどをして過ごすのです。自由にしていい、と旦那様から言われているので誰も貴女を咎めることはございません」
ソーニャの言葉に、サプフィールが少し顔を上げる。
「……付いてきてくれる?」
「もちろんです。どこへでもお供いたします」
「そう。じゃあ、行こうか」
自室の前を通り過ぎ、ソーニャを連れて通路を歩いていく。
使用人とすれ違うたび、サプフィールは笑みを浮かべて軽く挨拶を交わした。
厨房では料理人に、洗濯場では洗濯女たちに。
温室や物置、使用人棟にも足を運び、屋敷の間取りを少しずつ頭に入れていく。