第2章 嫁入り
時おり目が合うものの、その度サプフィールは決まって目を逸らす。
暖炉の火で照らされる横顔は少し困ったような、まごついているようなものだった。
落ち着かない様子にスヴェトザールはサプフィールから視線を外し、読みかけの本を開く。
開いたものの、意識は視界の端のサプフィールに向いていた。
やがてゆっくりとした動作でティーカップがテーブルの上に戻された。それを皮切りに、スヴェトザールが話しかける。
「実家から遠く離れた慣れない土地に来て、不安も不便も多いでしょう」
「はい……」
弱々しげな返事が返ってきた。
「なにか少しでも困ったことがあればいつでも私や他の者に言ってください。可能な限り応じます」
「……ええ」
「これから先、この家や領民を私と共に守っていく貴方を心から……」
深く息を吸う音が聞こえた。言いかけた言葉を切り、スヴェトザールは隣に目を向ける。
サプフィールは背もたれと肘掛けに体を預けて眠りに就いていた。
「…………」
それを見て、スヴェトザールは小さく息を吐く。
気絶するように寝た彼女をそっと抱き抱え、ベッドに移動させる。
穏やかな寝顔を確認し、スヴェトザールも寝支度をすることにした。
翌朝。サプフィールは窓の外から聴こえてくる小鳥のさえずりで目を覚ました。
ぼんやりとした頭で時間を確認する。カーテンは閉められているものの、隙間から差し込む光は十分に眩しかった。
いつもならとっくに侍女が起こしに来て着替えを促すはずなのに。
ふと、室内の景色や寝ているベッドが自分のものではないことに気付く。
寝具は実家で使っていたものより大きくて、室内の家具はヴィンテージばかりに見える。
段々とサプフィールは昨夜のことを思い出してきた。
妻の務めを果たそうと夫の寝室を訪ね、紅茶でもてなされ、それで、どうなったのか。
「…………!」
一気に目が冴えた。サプフィールは慌ててベッドから降り、バタバタと部屋を出る。
すぐ隣にある自分の部屋に駆け込んだ。