第2章 嫁入り
王都での結婚式と披露宴を終え、花嫁は家族と別れ、やがて馬車はコズロフ家の屋敷に到着した。
侍従が馬車のドアを開け、肌寒い空気が入り込んだ。スヴェトザールが先に降りて斜向かいに座っていた妻に手を差し伸べる。
サプフィール・コズロフ。コトフ家の第3子にあたる齢16の子爵令嬢である。
まだ緊張しているらしく、領地に戻るまでの1週間の道中に何度も差し伸べた手を今回もおずおずと掴み、ゆっくりと地面へ足を下ろした。
「我が家へようこそ。ここが今日から貴方の暮らす場所です」
スヴェトザールが屋敷やその周辺を指し示す。
それに反応して、サプフィールは顔を上げて目の前に見える景色を眺めた。
大きくはあるものの古い屋敷。その奥には牧地や森林、山脈が広がっている。
「……貴方にとって過ごしやすい土地だといいんですが」
王都からは程遠く、近くの大都市まで数日かかる田舎の領地。華やかな暮らしをしてきた令嬢にとっては物足りなく映るかもしれない。
サプフィールは屋敷を見上げたまま、その場から動けずにいた。
「行きましょうか」
その声に小さく頷き、ようやく一歩を踏み出す。
サプフィールを連れスヴェトザールは車寄せから進み、玄関へ向かった。
使用人たちに出迎えられ、サプフィールの荷物の搬入などが慌ただしくも滞りなく行なわれ、夕食も湯浴みも過ぎた頃。
スヴェトザールが寝室で本を読んでいると、扉が何者かによって叩かれた。
「あ……あの、サプフィールです。スヴェトザール様……」
扉の向こうからくぐもった声で呼びかけてくる。
「どうぞ。入りなさい」
そう返すと、間もなくドアがおそるおそる開かれた。室内を窺うように顔を覗かせ、慎重に入って扉を締める。
髪はほどかれ、寝間着に着替えたサプフィールが戸口に立っていた。
ソファに座るスヴェトザールをどこか居心地悪そうに見つめている。
「掛けなさい。茶を淹れるので少し待つように」
水を銅のケトルに入れ、火の焼べられた暖炉の三脚台に置く。
お湯が沸くまでの間スヴェトザールは慣れた様子で茶葉の缶と砂時計、ティーカップを一客だけサイドテーブルの上に出した。
「ご自身で準備されるんですか?」