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愛しのサプフィール

第1章 プロローグ


うららかな春の午後。屋敷の庭の一角では、シロツメクサが一面に咲き誇っている。
絨毯のように敷き詰められたそこで、幼い少年が一人座り込んで本を読んでいた。
風も日差しも穏やかで、辺りには蝶が舞っている。少年は読書もほどほどにしてシロツメクサの群生の中に寝転んだ。
思わず微睡んでしまいたくなる心地よい昼下がり。白い花の柔らかさと葉や茎の青い匂いに包まれながら、程なく寝息を立て始めた。
その様子を屋敷の二階から一人の男が眺めていた。
この屋敷の主人、スヴェトザール・コズロフ伯爵である。
少年の父親である彼は、休憩がてら執務室の窓から、シロツメクサの中で眠る我が子を眺めていた。
しばらくすると小さく息を吐き、また執務机に座り直す。
書類に囲まれ、延々と筆を走らせ判子を押す仕事に戻らなければ。
スヴェトザールは万年筆を取りかけ、しかしその先にある小さな額縁に手を伸ばす。
「サプフィール……」
額縁の中には亡き妻が描かれた肖像画が収められている。
静かに微笑んでいる表情を見て、かつての姿を思い返していた。
間もなく見つめるのを止め、元の位置に戻す。執務室は再び、書類と万年筆だけの時間へ戻っていった。







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