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愛しのサプフィール

第4章 冬の日


「けど……お茶なら従者がもう出してるだろうし……」
「従者からと妻からでは天と地の差です」
「こ、零して大事な書類を汚してしまうかもしれないし……」
「大丈夫です。盆を持つのは私がやります」
「もしそれで何かあったら、ソーニャが折檻を受けてしまうんじゃ……」
「かまいません。あなたのためのソーニャです」
「答えになってないよ……」
応酬をしながら、どんどん逃げ道を塞がれていく。
「行きたくない」とさえ言えばそこでソーニャは引き下がる。けれど、不思議とその言葉は口から出す気にならなかった。





執務室ではスヴェトザールが報告書の確認をしていた。
村ごとの積雪状況や、家畜の被害、病人の発生、備蓄されている食料や薪の残量、孤立した集落の有無。
今のところあまり深刻なことは起こってはいないようだけれど油断はできない。
どんなに気を付けていても毎年のように凍死者や飢餓に苦しむ者が出てくる。自殺と思しき不審死も他の季節より多く報告される傾向にある。困窮が全ての原因というわけではないものの、できるだけ領内に物資が行き渡るようにしなくては。
穀物の収穫量や税収に関する帳簿にも目を通しつつ、スヴェトザールは溜め息を吐く。
ふいに、執務室の扉をノックする音が聞こえた。
「入れ」
いつものように言うが、なかなか扉は開かれなかった。数秒の間を置き、ゆっくりと押し開けられる。
「す、スヴェトザール様……ご機嫌麗しゅう」
「……サプフィール?」
控えめに開かれた扉からサプフィールとその侍女が入ってきた。侍女の手には食器が載せられた銀盆がある。
「どうかしましたか? 何か相談事など……困ったことでもありましたか」
「いえ、その……お茶をお持ちしました」
「お茶?」
侍女が一礼して、スヴェトザールの執務机に近付く。
「失礼いたします」
保温カバーを被せたポットとティーカップとお茶請けのラズベリークッキーを机上の空いたスペースに置いた。
「……ありがとうございます、サプフィール。それで、用件は何でしょうか。遠慮せずに言ってください」
「あ、えっと……以上です。お仕事中失礼しました」
そう言い残し、サプフィールは侍女と共にそそくさと執務室から出ていった。
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