第4章 冬の日
「今日は濃いめと薄めどちらになさいますか」
「濃いめでお願い」
サモワールの蛇口が捻られ、コポコポと湯がカップに注がれる。
「どうぞ召し上がれ」
本から少し離されたところに紅茶と砂糖が置かれた。
砂糖を口に含み、濃い紅茶を少しだけ飲む。
「……早く冬、終わらないかな」
「あと5ヶ月ほどで春になるそうですよ」
「ちぇっ。王都の方が北にあるのに、こっちの方が雪深いだなんて」
手が冷え気味だからカップから手が離せず、読書がままならない。
幼い頃に与えられ、何度も繰り返し読んでいる図鑑。
絵が主体で、植生の特徴や人間にとって有害かどうかが少しばかり載っている。
この温室で育てられている植物のことは大概記載があるものの、この国よりもっと温暖な地域から輸入された植物については網羅しきれていないらしい。
珍妙な形の幹とザンバラに伸びる葉の、ヤシという植物を見ながらサプフィールはまた紅茶を飲む。やたら背の高いあの植物はこのまま伸び続け、いつか天井のガラスを突き破るんじゃないだろうか。
「あの変な木、食べれないやつ?」
「どうでしょう。実が成っている様子はないですね」
「ふーん……」
葉っぱは苦いのか、渋いのか。鱗みたいになってる幹の表皮の噛みごこちはどんな感じだろう。
「今度街に行く機会があるときに、書店に寄ってみるのはいかがでしょう。南方の植物について載っている本も出ているかもしれません」
「……いや、別にいいや。もし食べれるって知ったら逆によくないし」
あれは観賞用に植えられているものだ。実家の庭のように好奇心の赴くまま勝手に千切ったりしてはいけない。
この温室や庭園の全て。ヤシもシダも、レモンの木もゼラニウムもバラもそうだ。
伯爵夫人とはいえ、来たばかりの余所者が主人の庭で大事に育てられているものを台無しにするのは気が引ける。
「旦那様にお願いされてみてはどうでしょうか」
「遠慮しとく……。今でさえ夕食と夜しか会ってくれないのに、変な趣味があるって思われたらより一層避けられるかも」