第3章 夕食
「……ソーニャ」
「はい、旦那様」
乳母が茶を淹れる手を一旦止めて応える。
「妻の部屋にも本棚があったな。手が空いているときにでも、トレーネスの興味がありそうな本を探して出してやってほしい」
「かしこまりました」
一礼し、また茶器に手を伸ばす。ポットに熱湯が注がれる音を聞きながら、スヴェトザールは目を伏せた。
トレーネスはそわそわと本棚に並ぶ背表紙を眺めている。
領地経営に関する本の他に法律や地理、歴史の書物ばかりだ。勧めてはみたが、やはり6歳児には向かない。
新しく児童書を取り寄せるまでの間はサプフィールの蔵書に頼るのがいいだろう。
サプフィールが気に入っていた本であれば子どもにも読みやすい内容のものがあるかもしれない。
彼女の趣味嗜好はあまり大人びてもいなかった。乳母も内容を見て選んでくれるだろう。
「紅茶が入りました」
「ああ」
2人の前にストレートティーが置かれる。それに加え、トレーネスにはティースプーン1杯分のヴァレニエも別添えで出された。
「今日は何? ラズベリー?」
「イチゴです。トレーネス様」
「イチゴも好き」
口角を上げながらトレーネスがスプーンを持ち上げ、真っ赤なシロップを舐める。その横でスヴェトザールがゆっくりと紅茶に口を付けた。
乳母は一礼し、部屋の外で待機するためそのまま静かに退室する。
「……」
「………」
スヴェトザールの隣でトレーネスが少しぎこちなく座り直す。
トレーネスは乳母のソーニャが傍にいるときはそれなりに話すが、父親と2人きりになると緊張するらしい。
空になったティーカップとすっかり舐め終えたスプーンを前に、所在なく手指をモジモジと動かしている。
「……もう一杯どうだ」
「いえ……もう十分です」
俯きがちに首を振ってトレーネスが応える。
「……そうか」
時計の長針のカコン、という音の間がやけに耳につく。
隣に座る息子に何もしてやれないまま、スヴェトザールはカップの中身を小さく揺らす。
沈黙はトレーネスの就寝時刻になるまで続いた。