【H×H ミルキ】夏の大作戦 〜軽井沢に行きませんか?〜
第1章 震える指先
気づけば強く握りしめていたスマホを、ミルキはデスクに置いた。
そもそも、ミルキ自身が引きこもりだった。それも、ほとんど部屋から出ないほどの重度の。
(さあ、どうするか……)
引きこもりになったのは、何かがあったからではない。
パソコン一台あれば、勉強も、仕事も、投資も、人との会話さえできた。部屋を出る理由は、少しずつなくなっていった。気づけば、忙しくキーボードを叩く毎日が当たり前になり、外の世界は画面越しに眺めるだけになっていた。
まさか、外へ出る理由が、こんな形で訪れるとは思わなかった。
いきなり穂乃果を自分の部屋になど招けるはずがない。
……第一、汚部屋だ。
だけど。
陽の降り注ぐ街を、穂乃果と並んで歩いてみたい。
そんなささやかな願いが、今自分の中に確かに芽生えている。
ミルキは別に美食家などではなく、むしろマクドナルドやピザーラで十分満足できる。
部屋から玄関まで歩くことも、外へ出ることも、できないわけじゃない。
ただ、それをする理由がなかった。
けれど。
今は違う。
穂乃果と一緒に歩きたい。そのためだけなら、外へ出てもいいと思えた。
更に欲望は膨らんでゆく。
カフェとかいう場所にも穂乃果となら行ってみたい。コーヒーは苦いし、洒落た店にも興味はない。
それでも、穂乃果が「美味しい」と笑うものを、自分も隣で食べてみたかった。
「こうしちゃいられない!」
ミルキは勢いよくキーボードを叩いた。指先にはじっとりと汗が滲んでいる。
頬に埋もれた細い目が、何年も待ち続けた新作ゲームの発売日が決まった時のようにきらりと光った。