【H×H ミルキ】夏の大作戦 〜軽井沢に行きませんか?〜
第5章 二人きりの散歩道
けれど、歩き出したイルミはそんなことには気づいていないらしい。
日差しの強い場所に出そうになると、穂乃果の背中へ手を回し、そのまま自分の側へ軽く寄せた。
「こっち。日陰」
「あ……」
促されるまま、木陰へ入る。
背中に添えられた手は思っていたよりずっと大きい。
ニキビを気にしてくれたことも、日焼け止めを塗ってくれたことも、何も言わず日陰を選んで歩いてくれることも、きっとイルミにとっては大したことではないのだろう。
それでも。
穂乃果の口から、ぽつりと言葉がこぼれた。
「イルくんって……優しいですよね」
「うーん」
イルミは少し考えるように間を置いた。
「言われたことないな」
「……」
それまでと変わらない声だった。
けれど、ほんのわずかに歩幅が広くなる。そして穂乃果の背にあった手が、するりと離れた。
(あ……)
触れていたところに、急に夏の空気が入り込む。
さっきまでは気にも留めなかった、汗ばんだ背中に張りつく布の感触が急にはっきりした。
イルミはもう、少しだけ、離れて前を歩いている。
「もう着くよ」
前を向いたまま、イルミが言った。
案内の終了を予告するイルミのその声に初めて穂乃果は気づいた。
もうすぐ、二人きりではなくなる。
ほんの少し前まで、それを気まずいと思っていたはずなのに、なぜか今もう少しだけこのままでいたい。
穂乃果は思わず足を止めてしまう。
「イルくん、その……」