【H×H ミルキ】夏の大作戦 〜軽井沢に行きませんか?〜
第5章 二人きりの散歩道
木々の間に、緩やかな曲線を描くアイアンの看板が現れた。
――ZOLDYCK FOREST VILLA
深い緑を背景に、流れるような筆記体で刻まれた文字が優雅に迎え、その先は石畳の遊歩道が森の奥へと続いている。
手入れされた木立の向こうに湖が覗き、ところどころに小さなカフェやレストラン、木造のコテージがひっそりと点在している。
いかにも観光地、という雰囲気ではない。むしろ、広大な森をそのまま贅沢に囲い込んでしまったような場所だった。
待ち合わせ場所に指定された湖畔のカフェまでは、駐車場から歩いて十分ほどらしい。
「こっち」
イルミが迷いなく遊歩道へ入っていく。
予定より若干時間が押していることもあって、穂乃果たちも自然とその後についていった。
木漏れ日の落ちる小径を進むにつれ、森の奥から水のきらめきが見えてくる。
ベンチには本を読む老夫婦。
湖畔のテラスには、昼間からワイングラスを傾ける大人のカップル。
犬を連れて散歩する人まで、なんとなく品がいい。
(……なんか、イメージよりだいぶ落ち着いてるかも?)
事前にネットで調べてはみたものの、シンプルなトップページの先は会員専用になっていて、中の様子までは分からなかった。
穂乃果は少し物珍しそうに、歩きながら辺りを見回した。
友人たちも、どこか特別な雰囲気に高揚したのか、盛り上がりながらどんどん先へ歩いていく。
友人たちが賑やかに先を行く中、イルミは歩調をわずかに緩めた。
そのまま列の後ろへ回ると、ポケットからスマホを取り出す。
画面を隠すでもなく、素早く指を滑らせた。
『予定より10分遅れる』
『まだ分かれられない』
『もう少し待って』
送信。
隣を歩いていた穂乃果は、その横顔をちらりと窺った。
(誰に……?)
(彼女さん、とかかな……)
(ちゃんと連絡する人なんだ)
胸の奥が、ほんの少しだけちくりとした。
(……?)
その感覚に戸惑う間もなく、イルミは何事もなかったようにスマホをポケットへしまう。
「早く行こ」
「う、うん」